睡眠は心身の疲労を回復させるものである―――。

なんとなく誰もがそれを知っています。

1日は24時間しかありません。その限られた時間の約3分の1を、私たちは睡眠のために使っています。

「もっとやりたいことがあるのに・・・なんで寝ないといけないんだろう?」

「眠らなくても大丈夫な身体になれたらいいのに!」

そんなことを考えたことがある人もいるのではないでしょうか?

しかし、睡眠は単に「休む」「疲れを取る」ためだけのものではないのです。

睡眠の意味と役割について学んでいきましょう。

動物はみな眠る

眠る子犬の画像

人間だけでなく、地球上に住む動物たちは皆、眠ります。しかしその「眠りかた」は一定ではありません。

人間は昼間に活動をして夜になると眠りますが、動物たちの中には逆に夜行性のものもいます。また、一日に何度も睡眠をとる動物もいます。

それらの違いがどうして生まれたかを考えてみましょう。

太古の昔、地球上に生命が生まれ、様々な動物が誕生し、それぞれがこの地球の環境にあわせて進化していきました。

地球上には24時間の昼と夜のサイクルがあります。それは当然、動物たちの生態に影響を与えます。動物たちは進化の過程で、昼と夜のサイクルにあわせて生きるために効率の良い「生活のリズム」を手に入れたと考えられます。それが「体内時計(生物時計)」です。

例えば、別の生物を襲って食べる動物は、狩りに都合がいい夜に活動するようになったり。逆に食われる可能性がある弱い動物たちは、いつ襲われてもすぐに逃げ出せるように、短時間の睡眠を分割してとるようになったのかもしれません。

それでは人間は?

脳が発達し高い知能を持った人間は、言葉を身につけ社会を作りました。人間同士でコミュニケーションを取るためには明るい昼間に活動するのが合理的です。また、道具を使うようになり、家を作るようになった結果、野生動物から襲われる危険も少なくなり、夜でも安心して眠れるようになりました。

このような進化と環境への適応を重ねていくうちに、「暗くなると自然と眠くなり、朝が来ると目が覚める」という体内時計のリズムが人間のDNAに組み込まれていったと考えられます。

人間の睡眠はより複雑なもの

本能のままに暮らす魚や虫などの生物にとっての睡眠(休眠)は、活動によって疲れた身体をただ休めているだけにも思えます。

近年の研究でハエやミツバチなどの昆虫も「睡眠」を行うことがわかっています。

参考:
不眠遺伝子の発見
睡眠不足の虫は作業が雑になる | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

しかし哺乳類や鳥類など、脳が発達した動物たちは、身体だけでなく脳も休ませる必要があります。

特に高度な知能を持つ人間は、身体での活動以上に、学び、考え、覚え、etc…、脳を使って生活しています。
そのため人間の睡眠は、単に「休む」だけではない、より複雑な役割を持つものへと進化していきました。

レム睡眠とノンレム睡眠

レム睡眠とノンレム睡眠の推移グラフ
人間の眠りでは約90分周期でノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせ(睡眠単位)が繰り返される

人間の睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類があることは、知っている人も多いでしょう。

レム睡眠は、身体の筋肉が完全に休んだ状態になる睡眠で、魚類や両生類(カエルなど)の睡眠に近い、原始的な眠りであると考えられています。
レム睡眠中は身体は動きませんが、脳は起きて活動している状態であることがわかっています。

一方ノンレム睡眠は、脳が発達した動物に特有のもので、レム睡眠では休ませることができない大脳をしっかり休ませるために進化した眠りであると考えられます。

睡眠は記憶を整理する

近年の研究で、睡眠中の脳の中では記憶の整理(不要な記憶を忘れ、必要な記憶を脳に定着させる)が行われていることが明らかになっており、レム睡眠中に記憶が形成され、ノンレム睡眠中に記憶が定着すると言われています。睡眠は脳の重要な役割のひとつである「記憶」に大きく関わっているのです。

ノンレム睡眠の中でも特に深い眠りは「徐波睡眠(じょはすいみん)」と呼ばれ、眠りについてから最初の3~4時間の間に集中的に現れます。
その後、次第に徐波睡眠の割合は減っていき、起きる時間が近づく頃にはほとんどが浅い眠りになっています。

すなわち、眠りについてまず先に脳が休むための徐波睡眠がメインで行われ、その後は「スムーズに目覚めやすい」ように浅いレム睡眠が増えていく、と考えることもできるでしょう。2つの睡眠が組み合わさることで、効率の良い眠りが作られているのです。

寝不足のときは睡眠の質が変わる?

また、徐波睡眠は寝不足の時には普段より多く現れることがわかっています。わかりやすく言うと、寝不足を解消するために深い睡眠の割合が増すのです。徹夜したからと言って、次の日の睡眠時間が単純にいつもの2倍の長さになるわけではないのは、この睡眠の質のコントロールによります。

睡眠の質を脳がコントロールする説明図

これらの事実から、ノンレム睡眠は体内時計だけでなく、脳によっても調節・制御されていることがわかります。

一方レム睡眠は、毎回の眠りの中で、約90~100分周期で定期的に現れます。
レム睡眠は基本的に体内時計のリズムをもとに作り出される眠りであると言えるでしょう。

人間の体内時計のリズムには、約1日周期のサーカディアン・リズム(概日リズム)、半日周期のサーカセメディアン・リズム、そして約90分周期のウルトラディアン・リズムがあります。このウルトラディアン・リズムがレム睡眠の周期に関わっているとされ「睡眠周期」とも呼ばれます。

脳が睡眠をコントロールしている

このように人間の睡眠は、体内時計のリズムによる眠りと、必要な睡眠量(=起きていた時間の長さ・寝不足量)を元に脳がコントロールする眠りが複雑に組み合わさったものになっています。
ただ単に、体内時計で決められた時間に自動的に眠くなったり、脳や身体が疲れて限界で動かなくなったりしているわけではないのです。

むしろ脳が「身体を休ませる」「記憶を整える」「脳自体を休ませる」といった明確な目的のために、身体に命令を出して行っている行動と言ってもよいでしょう。

そのため、脳の状態が健康でないと、良い睡眠が作り出せなくなります。メンタルの調子が悪いと不眠になったり、歳を取ると夜中に目が覚めることが多くなるのは、ストレスや老化によって脳が睡眠を上手くコントロールできなくなるためです。

脳と睡眠はとても重要な関係にあるのです。

睡眠と記憶が大きく関わっていることが明らかになってきたのは最近のことで、未だ解明されていないことも多く、研究が続けられています。
睡眠中に脳内で情報の整理が行われているという説が検証されるきっかけになった2003年のウィスコンシン大学の「シナプス恒常性仮説」以降、様々な研究によって睡眠と記憶の関係が少しずつ明らかになってきています。

参考:The Purpose of Sleep? To Forget, Scientists Say – The New York Times

2016年、カナダのマギル大学の研究により、レム睡眠が脳の中で記憶の形成に大きく関わっていることが明らかに。

参考:レム睡眠が記憶形成に重要な役割=研究 – BBCニュース(2016年5月16日)

2018年2月に発表された東京大学の研究では、睡眠中に出されるSWRという脳波が脳の回路をクールダウンさせ、不要な情報を整理して記憶の容量を確保していることが明らかになりました。

参考:「生物が眠る理由」 睡眠で脳回路はクールダウンされる 東京大学 | 大学ジャーナルオンライン

睡眠と成長ホルモンの関係

睡眠が重要な理由はまだ他にもあります。

身体を作ったり傷んだ部分を修復するための成長ホルモンが最も多く分泌されるのは、徐波睡眠中であることが明らかになっています。

先ほど説明した通り、眠りに入って最初の3~4時間の間に現れる、ノンレム睡眠の中でも特に深い眠りの状態が徐波睡眠です。

「成長」ホルモンという名前ですが、単に子どもが大人になるといった意味ではなく、「身体の組織をつくる」ホルモンなので、例えば肌の新陳代謝などにも関わってきます。

そのため美肌やアンチエイジングのためにも睡眠はとても重要なのです。

もちろん骨や筋肉をつくるためにも必要なので、子どもの成長にも良い睡眠は欠かせません。「寝る子は育つ」というのは本当なのです。

その他、成長ホルモンには血糖値や恒常性を正常に保つ効果や、体脂肪の分解を促進する働きがあることも知られています。
寝れば痩せるという単純な話ではありませんが、ダイエットのためにも日頃から良い睡眠を心掛けることは大きな意味があると言えるでしょう。

まとめ

以上、人間にとっての睡眠のさまざまな意味と役割についてご紹介しました。

睡眠が脳のさまざまな働きと大きな関わりがあるということが明らかになってきたのは、まだ最近の話であり、「人が眠る理由」には今なお未解明の部分が数多くあります。

国や時代によっては「睡眠は意味がなく悪いもの」だと考える学者もいたといいます。

しかし近年の研究によって、睡眠の価値と、睡眠を取らないことがいかに身体にとって危険であるかがわかってきました。

この記事で紹介した以外にも、睡眠は認知機能や心疾患、うつなどの精神機能にも大きな関わりがあることが指摘されており、研究が続けられています。

良い睡眠をとることはさまざまな身体に良い効果があります。正しい知識を学び、毎日の睡眠時間を大切に生活していきましょう。